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枯れた技術を使う

column

2020年06月24日

合同会社エムアイティエス代表 水谷哲也

システム設計では”よく枯れた技術を使え”という言葉が使われます。フォールトアボイダンスという設計手法があり、枯れた技術はこのフォールトアボイダンスで出てきます。

枯れた技術で冥王星へ

フォールトアボイダンスとは高品質・高信頼性の部品を使い故障が生じにくい設計や構造を採用することです。これによってシステム全体での障害を回避し、動作し続けるシステムを設計することができます。アボイダンスとは「回避」という意味で故障を起こさないようにすることです。最新の技術や部品を使うと、どうしても初期故障が発生しますが、皆が使っていて定評のある部品は偶発故障しかありません。これが枯れた技術になります。

2006年1月、冥王星を目指してNASAが打ち上げたのが探査機「ニュー・ホライズンズ」。人類初の太陽系外縁天体の探査を行う探査機です。打ち上げ以来、9年間をかけて冥王星に近づき、2015年に入り、いよいよ観測を開始しました。太陽から約56億kmも離れていますので冥王星軌道からの通信速度はたったの800bpsほど。1980年代後半に流行ったパソコン通信時代によく使われていたモデムが2400bpsでしたので、それよりも遅い通信速度です。最新の5Gの通信速度は3.4Gbpsですので800bpsは400万倍分の1の速さです。

ニュー・ホライズンズには初代プレステと同じマイクロプロセッサが搭載されている

ニュー・ホライズンズには初代プレイステーションに使われたマイクロプロセッサが搭載されています。過酷な宇宙空間を行く探査機に搭載するので要求されるのは信頼性。高性能なマイクロプロセッサもありますが、肝心な時にトラブルを起こしてもらったら困ります。もっと昔、アポロ11号の月着陸で使われたコンピュータでも高機能電卓やファミコンよりも処理能力が劣るコンピュータ、つまり枯れた技術が使われました。これがフォールトアボイダンスです。

事故が起きるとすべての電車が止まるのはなぜ

システム設計ではフェールセーフという考え方も重要です。地下鉄で事故が起きると走行中の全ての電車が止まります。路線が違うなど影響がない電車から順次、運転を再開しますが、何かあればとにかく全ての電車を止めます。これはフェールセーフの一例でシステムに障害が発生した場合、常に安全側に倒すシステム設計のやり方です。

他にもフェールソフトという考え方があります。システムの一部に問題が生じても故障個所を切り離すなどして全体が機能停止するということなく動作し続けるようにシステムを設計する考え方です。縮退運転ともいわれ特に命を預かるシステムで使われています。例えばジェット機であればエンジンが1つ止まっても速度は落ちますが墜落することなく飛び続けられます。

フールプルーフという考え方もあります。フールは馬鹿者という意味でユーザーが誤った行動をしてもシステムの安全性と信頼性を保持します。例えば洗濯機はフタを閉じないとドラムが回転しないようになっています。誤発進しないようブレーキを踏まないと車のエンジンかからないようになっています。システムではユーザーが誤操作をしても入力データのチェックやエラーメッセージを表示することで防ぎます。

太陽系の外へ

「すいきんちかもくどってんかいめい(水金地火木土天海冥)」と覚えた冥王星。昔は太陽系第9惑星と学校で習いましたが、2006年8月に冥王星は惑星じゃなく準惑星に分類されてしまいました。ニュー・ホライズンズには1930年に冥王星を発見したクライド・トンボーの遺灰が搭載されています。

冥王星探査を終えたニュー・ホライズンズは太陽系外縁天体を観測し、その後は太陽系を脱出していきます。

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