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希望退職者募集の実務

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2021年06月02日

社会保険労務士法人味園事務所 特定社会保険労務士 味園公一

新型コロナウイルス感染症により、国民や企業は多くの我慢を強いられています。特に、休業要請、営業時間短縮要請や販売品目の抑制要請などにより業績が大きく悪化している企業も少なくありません。会社の存続、業績回復のための人員削減の手法として「希望退職者募集」があります。今回はこの運用について紹介します。

希望退職者募集と早期退職優遇制度

希望退職者募集とは、「社員の自発的な意思による退職の申し出を誘引すること」を言います。前述の通り企業業績の悪化に伴い、経費(人件費)の抑制を急ぎ行う必要がある場合に、一時的に行う措置です。対して早期退職優遇制度とは、「中長期的な人事管理のため、社員に退職を促すもの。」であり、恒常的または一定の時期に複数回にわたり実施されるものです。

各々の根拠としては、早期退職優遇制度については恒常的に行われる退職の仕組みですので、就業規則等に定めておく必要があります。しかし、希望退職者募集は臨時的なものですので、募集内容を記した書面(募集要項)を周知すれば足ります。

また、いずれの制度(仕組み)でも、退職者に対して通常の退職時にプラスしてインセンティブを与えることが特徴のひとつです。

募集要項の内容

募集要項は、社員に退職者を募るに至った背景(要は経営状況)や、募集に関する内容を丁寧に説明できるよう、次の項目を記載する必要があります。

①募集人数

希望退職者を募る理由は、経営状況の悪化であり人件費負担を軽減することにより企業業績の回復の一助とするためです。よって、会社の実情に照らして募集人数を決定する必要があります。また人数の決定に当たっては、妥当性のあるものである必要があります。

②対象者

正社員、非正規労働者、一定年齢以上の社員、一定の勤続年数以上の社員、特定の部署や職種など、範囲を限定して良いです。もちろん全社員を対象として募集しても良いです。募集範囲を限定することにより退職の意思表示をする者が少なくなるというデメリットがありますが、希望退職者を募集すると他社で活躍する自信のある有能な社員から手を挙げる傾向がありますので、範囲の設定によってはそれを抑制できるメリットもあります。また、「会社が承認した者」と要件を加えることにより、退職社員を選別することもできます。

③募集期間

募集する期間については、2週間から1か月程度の期間を設けることが一般的ですが、募集期間が短いと退職希望者が募集人数に満たない可能性があります。逆に長すぎると人件費を抑制できる開始時期が後ろ倒しになります。

募希望退職により退職した者は、雇用保険の基本手当(俗に言う失業保険)で特定受給資格者または特定理由資格者に認定され、失業保険の受給開始時期や受給期間に関して優遇措置を受けられる場合があります。特定受給資格者となる判断基準として「人員整理を目的とし、措置が導入された時期が離職者の離職前1年以内であり、かつ、当該希望退職の募集期間が3か月以内である」がありますので、それらを加味して募集期間を決定しましょう。

④応募手続き

希望退職を応募するにあたり、その手順を定めておきます。所定の応募書面を作成し、いつまでに誰に提出するかを記載します。

⑤退職日

希望者が退職する日を定めます。ただし、「業務上、当該日に退職することが不適当な者については、個別に退職日を決定する」と加えておくと良いです。

⑥退職に関する諸条件

ここでは、前述のインセンティブ等について記載します。

1)退職金の加算について

退職金の加算額については、会社の経営状態に鑑み決定しましょう。具体的な加算額の決定以外に、定年退職者同様「会社都合退職の支給率により計算する」や「基本給の〇か月分を加算する」等もあります。

2)年次有給休暇の買い取り

退職日までに消化しきれない年次有給休暇を買い取るものです。未消化1日あたりの買い取り金額は、通常の賃金額とすることが理想ですが、未消化分の買い取りについては法規制がありませんので、会社が独自に一定金額を定めても問題ありません。ただし、あくまでも退職を誘引するためのインセンティブですから魅力のない内容では意味がありません。

3)特別休暇の付与

希望退職に応募する社員の心配ごとは、退職後の生活でしょう。再就職先を早く決めたいという想いがあると思います。業務の引継ぎ等が完了した後には、退職日までの間に就職活動を許可する会社も少なくありません。この場合は年次有給休暇の他に有給の特別休暇与えます。

4)再就職支援

希望者に会社の費用負担で再就職支援サービスの提供を行うものです。この場合、支援を受けなかった者に対して支援に係る費用と同額を退職金に上乗せして支払い、公平性を保つケースもあります。

その他の注意点

  • 希望退職者の募集に関する内容を決定するにあたっては、労働組合や労働者代表と十分に話し合う必要があると考えます。いくら会社の再建とはいえ、社員をないがしろにするわけにはいきません。
  • 募集要項を公表する前に既に退職の意思表示をしていた社員については、希望退職者募集による退職とは認めず、インセンティブを受け取ることはできない旨も明確にしておくべきです。募集要項に記載しても良いです。
  • 募集期間が開始した後に、対象範囲の社員との個人面談を実施しても良いです。この場合の面談は、所属部署の責任者や直属の上長、人事総務の責任者などがこれに当たります。決して強要になるような言い方はできませんが、面談対象者に退職を促したり、引き留めをすることをしても良いです。

参照文献等 : ハローワークインターネットサービス、広島県雇用労働情報サイト、労政時報第3999号

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