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給与規程の改定に関し、あれこれ感じたこと(その②)

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2021年10月13日

社会保険労務士法人味園事務所 特定社会保険労務士 味園公一

前回に引き続き、給与規程改定作業で感じたことです。就業規則や給与規程のひな形は、WEB検索をすればいくつも出てきます。しかし、安易にそれらを用いる(例えば会社名を変更するのみ等)と、貴社で運用していないことが規定されている場合もあり危険です。実態に即した内容を規定するようにしましょう。

給与規程改定のポイント②

個別労働関係紛争が多発する昨今、その紛争解決の判断の際に、就業規則等諸規程に規定(記載)されていない事項については根拠として認められないケースもあります。また、就業規則等に規定がなくとも慣習として運用している実態内容を、諸規程に規定していたとみなされる逆のケースもあります。

いずれも会社の本来の意図が汲まれないことも多いので、やはり、ルールはしっかりと諸規程に規定しておくべきです。

割増賃金関係

ここでは、割増賃金に関する条項について見ていきます。

労働時間のカウントは1分単位

「時間外・休日・深夜労働時間は15分単位」という規定を見かけます。切り捨てられた時間分の賃金は未払い賃金であり、労働基準法第24条「賃金の全額払い」に違反します。

ただし、以下の通り通達で認められている端数処理の方法もあります
「1か月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること」(昭和63年3月14日基発第150号)

こちらは、「切り捨て」と「切り上げ」をセットで運用する必要がありますので注意してください。

月平均所定労働時間

割増賃金基礎単価を計算する上で、毎月変動する所定労働時間ではなく「月平均所定労働時間」を用いるケースが一般的です。年間の総労働日数は、休日や祝日の関係で変動する場合があります。変動する都度「月平均所定労働時間」を算定しませんと、実際の単価に比べ社員が不利益を被る場合があります。これらも結果的に未払い賃金となります。

「月平均所定労働時間」の算定年度の起算日も給与規程に定めておきましょう。

住宅手当の割増賃金算定基礎からの除外

労働基準法第37条第5項及び同施行規則第21条において、割増賃金の算定基礎額から除外可能な賃金が規定されており、住宅手当もこれに含まれています。

除外するための要件としては、「住宅に要する費用に応じて算定されるもの」でなければなりません。①一律2万円、②世帯主2万円、その他1万円、③持ち家2万円、賃貸1万円というような一律的な住宅手当は算定対象とする必要があります。「住宅に要する費用に定率を乗じた額」とすることや、「住宅に要する費用を段階的に区分し、同費用が増えるに従って住宅手当額を多くする」などの対応が必要です。

深夜労働における割増率

22時から翌5時までの深夜労働に対しては、2割5分増し以上の割増賃金を支給する必要があります。給与規程では「割増賃金算定基礎額÷月平均所定労働時間×0.25×深夜労働時間」と規定すれば足りますが、稀に「×1.25」と記載されているものがあります。

間違いではないのですが、22時以降の労働時間を時間外(休日)労働時間から通算して算定するのではなく、改めて数え直すようにしないと「時間外1.25+深夜1.25=2.5」と1時間分の賃金をダブって支払うことになります。規定と運用を誤ると、こちらも未払い賃金になる可能性がありますので、注意して下さい。

その他の条項関係

昇給・降給

「昇給は毎年4月に実施する。」このような規定を見かけることがあります。この規程では、毎年必ず昇給させることを約束してます。①業績により昇給させないケース、②長期欠勤や休職中等一定の者を対象外とするケース、③評価や成果により言及させるケース等がある場合には、次にように規定すると良いでしょう。

「原則として毎年4月に給与改定(昇給又は降給)を行う。但し、業績により昇給させない場合がある。なお、次の各号の者は給与改定の対象としない。①長期欠勤中の者、②休職中の者、③・・・」

賞与の支給対象者

「賞与は6月(夏季)と12月(冬季)に、賞与支払日に在籍する者に支給する。」このように規定するケースもよくあります。この場合でのトラブルの原因は、「賞与支払日の在籍者」に賞与を支給することを約束する規定となっていることです。在籍者とは会社に在籍する者であり、長期欠勤者、休職者など賞与の定対象期間(こちらも規定しておくことをお勧めします。)の全日労働していなかった者も含みます。まさか「賞与0円を支給する。」などとは通用しませんので、支給対象除外者がいる場合には、しっかりと規定しておきましょう。加えて、前述の賞与算定対象期間の一部につき労働した者の取り扱いについても規定しておきます。

附則

附則において、「この規程に定める事項及び金額等が、社会情勢等によって著しく妥当性を欠く事態となったときその他必要に応じて、この規程を見直して改廃することがある。」との規定も見かけます。

給与に関する事項については就業規則の絶対的必要記載事項のため、常時10人以上の労働者を使用する事業場においては、給与規程を廃止することはできません。就業規則の相対的必要記載事項(定めがある場合には記載が必要な事項)に関する規程は廃止する場合もありますが、給与規程では「改廃」ではなく「改定」が正しい言い回しとなります。

おわりに

前回コラムに記載した通り、給与に関する法規制は、労働基準法と最低賃金法です。
固定残業代の制度を適用している会社については、前述の月平均所定労働時間の変動による割増賃金再計算に加え、割増賃金相当を除く給与額が最低賃金を下回らないかも確認が必要ですので、合わせてご注意願います。

運用実態にそぐわない規定は、労使各々が不利益を被る場合がありますので見直しをしておきましょう。また、手当の追加や変更等の給与制度の改定など、その運用が変わる場合には、必ず給与規程を改定し、常時10人以上の事業場に限らず労働基準監督署に届け出ることをお勧めいたします。

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