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「ウチはFAXしかない」は通じません

column

2025年12月10日

水谷IT支援事務所代表 水谷哲也

2026年1月より中小受託取引適正化法(取適法)がスタートします。これは、製造業などの適正取引を定めた下請代金支払遅延等防止法(下請法)の改正によるものです。長年、用いられてきた手形での支払いは原則として法律違反となり、電子記録債権(電債)を使用する場合であっても、支払期日を物品等の受領日から60日以内としなければ違反となります。発注担当者および受注担当者への教育は欠かせません。

下請法が取適法に変わります

下請代金支払遅延等防止法は昭和31年に制定された古い法律です。もともとは製造業が対象で、下請取引の公正化及び受注事業者の利益の保護を図ることを目的としています。発注企業に比べ弱い立場である受注事業者を守るための法律です。

やがて経済のサービス化、ソフト化が進んだこともあり、平成15年に法律改正が行われ、プログラム作成やデザイン制作など情報成果物作成委託が新たな対象となりました。その他に自動車整備業、家電修理業などの修理委託、運送、広告制作などの役務提供委託も対象となっています。

発注企業には四つの義務があります。

  • 書面の交付義務
    電話など口頭で発注するのではなく、正式に書面を交わす義務です。書面には取引内容(発注内容、支払期日、支払金額など)を項目として記入します。発注時に最終仕様が決定しておらず正確な作業工程や工数見積ができていない場合は、支払金額などの項目を抜いた書面でも差し支えありません。ただし、決定しだい直ちに項目を加えた書面を交付することとされています。最終仕様が確定してから初めて書面を交付するような行為は違反行為となります。
  • 支払期日を定める義務
    支払期日については、物品等の受領日または役務提供の完了日から起算して60日以内を支払日とします。60日を超えて支払日を設定することはできません。また、支払期日を設定しない場合は、受領日または完了日が支払期日になります。ただし、検査などで不具合が見つかった場合は、修正が完了し、改めて検査で合格になってから(起算されます)。もちろん、検査期間が60日を超えるような期間設定は違反です。
  • 書類の作成・保存義務
    受注事業者への検査結果や支払った代金、取引内容が変更になった場合はその理由などを記載した書類を作成し、下請取引に係わるトラブルを未然に防止します。書類は2年間の保存義務があります。
  • 延滞利息の支払義務
    発注企業が代金を支払期日までに支払わなかった場合、60日を超え、実際に支払いをする日までの期間について、その日数に応じ、未払い金額に年率14.6%を乗じた額が延滞利息となり支払義務が発生します。

取適法による変更点

発注企業は、受注事業者からの価格協議に応じなければ法律違反になります。原材料費や輸送費、人件費など値上げが続いています。受注事業者からの価格協議に応じず、一方的に代金を決定すると法律違反になります。協議を繰り返し先延ばしにするのも法律違反です。

手形による代金の支払いは原則として法律違反になります。紙の手形が無くなるため電子記録債権(電債)に移行している企業も多いですが、支払期日が60日以内でなければ法律違反になります。また、受取手数料や振込手数料を受注事業者に負担させるのも禁止です。

発注企業ではペーパーレス化が進んでいますが、その点を考慮して書面交付義務については、受注事業者が「ウチはメールなんか見ないのでFAXしてくれ」と依頼しても、電子メールなどの電磁的方法で送れます。受注事業者が承諾していなくてもかまいません。これは、受注事業者にもデジタル化に対応するよう促す側面があるということです。

社員教育が大切

法律を知らなかったでは済みません。軽微な違反なら指導がありますが、これが勧告になると会社名や違反内容が公表され、公正取引委員会のホームページに掲載され、新聞などでの報道で社会的信用に影響を与えます。

発注・受注担当者だけでなく、総務部門で、ちょっとした冊子のデザインをクラウドソーシングでフリーランスに頼もうという場合も関係してきます。全社員が対象だと考えて、しっかり教育しましょう。

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