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スポットワーク活用時の注意点

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2025年11月19日

社会保険労務士法人味園事務所 代表社員所長  味園 公一

近年、単発・短時間の労働形態である「スポットワーク」の活用が急速に広がっています。人手不足の解消や繁忙期の対応手段として有効な一方で、事業主には通常の雇用と同様に労働法令の遵守が求められます。今回は、スポットワークを活用する際の留意点について紹介します。

スポットワークとは

「スポットワーク」とは、主に単発・短時間の労働形態であり、就業先の事業主と直接労働契約を締結して働くものを指します。スポットワークをする労働者のことを「スポットワーカー」といいます。

なお、就業先と業務委託契約や請負契約を締結する個人事業主や、派遣会社から派遣されて働くような形態は、このスポットワークには含まれないこととされています。

事業主が直接募集をすることもありますが、一般的にはスポットワーク仲介業者による仲介サイトやアプリを用いて事業主が求人掲載を行い、そこにスポットワーカーが応募をします。事業主とスポットワーカーのマッチングにより、直接雇用による労働契約を締結します。

労働契約の成立と解約対応

前述のとおり、スポットワークは、別途特段の合意がなければ、事業主が掲載した求人にスポットワーカーが応募した時点で労働契約が成立すると一般的に考えられます。これにより、事業主には労働基準法、最低賃金法、労働契約法などの遵守義務が生じます。

特に注意すべきは、勤務直前の解約です。スポットワーカー側からの解約は、原則として理由を問わず可能とされています。なお、勤務直前の解約を行った場合、仲介業者からスポットワーカーに対しペナルティを付与されることがありますが、事業主からこのペナルティの累積を理由とした解約はできません。

一方、事業主からの解約に関しては、スポットワーク協会が発表した「スポットワークサービスにおける適切な労務管理へ向けた考え方」によると、勤務開始時刻の24時間前を経過した後は原則として解約不可としつつ、以下の事由に該当する場合には解約可能としました。

  • 不可抗力その他の事由(地震や台風等の天災事変等)があるとき
  • 長期療養や逮捕・勾留等のために、就労日に就労できないことが明らかなとき
  • 就労に必要な資格の証明がないとき、法令上就労させることができないとき、その他 就労において必要となる法令の趣旨に照らして条件を満たさないとき
  • 契約上の義務違反又は不法行為、犯罪行為等の反社会的行為を行なったとき
  • 募集条件として明示している勤務態度にかかる条件を満たさないことを使用者が確認したとき
  • 募集条件として明示している同種業務の経験や使用者における勤務経験にかかる条件等使用者が求める条件を満たさないとき
  • 募集条件として明示している持ち物に不備があるとき
  • 募集条件として明示している髪色・長髪・服装などの身だしなみについて、使用者が求める条件を満たさないとき

また、勤務開始時刻の24時間前までは、上記8つの事由に加えて、次の事由による解約も可能とされています。

  • 天災等の不可抗力によらない営業中止のとき
  • 大幅な仕事量の変化による募集人数の変更が必要となったとき
  • 掲載ミス(業務内容、日時の誤り)があったとき

ただし、使用者が必要な確認を怠った結果、直前の解約となった場合には、解約の合理性・相当性が認められず解約が無効となる場合があります。さらに、事業主都合で解約した場合や解約が無効となる場合、休業手当の支払い義務が発生する可能性があるため注意が必要です。

スポットワーカーとの間では、前述の解約事由を予め労働条件通知書などに明示しておきましょう。

労働条件の明示

前述のとおり、スポットワーカーとの間の雇用契約においては、通常の雇用と同様に労働条件の明示義務が生じます。労働条件通知書の交付をスポットワーク仲介事業者が代行するケースもありますが、事業主に課される義務である以上、事業主がしっかりと内容を確認し、確実に交付しましょう。

なお、スポットワーカーの応募時点で一旦確定した労働条件について、労働時間や業務内容などの内容を変更する場合には、スポットワーカーとの合意が必要です。また、一方的な賃金の減額や、「別途支払う」としていた交通費の不払いなどはできません。この点、労働条件の変更が発生しないよう、求人情報を掲載する際は十分に確認を行った上で行いましょう。

賃金・労働時間の管理

厚生労働省より発表されているリーフレット「スポットワークの労務管理」において、業務に必要な準備行為等も労働時間であることが明記されています。事業主の指示により次のような時間を設ける場合は、求人掲載情報にこれらの時間を労働時間に含めて始業・終業時刻を設定することが望ましいです。

  • 業務前の準備行為(制服の着替え、機材の準備など)
  • 業務後の後始末(清掃、報告書記入など)
  • 指示による待機時間(業務開始前の集合、指示待ちなど)

また、実際の労働時間が予定と異なる場合、事業主は速やかに確認し、労働時間を確定させた上で、所定支払日までに賃金を支払う必要があります。

その他、休業手当についても注意が必要です。事業主の都合で休業させた場合は、労働基準法第26条に基づき「休業手当(平均賃金の60%)」の支払いが必要です。さらに民法第536条第2項により、事業主の故意・過失による休業の場合には「賃金全額」の支払いが求められる可能性があるため、注意が必要です。

労災やハラスメント対策など

スポットワーカーが通勤途中や業務中にケガをした場合であっても、通常の雇用と同様、労災保険給付の対象となり得ます。労災保険料は事業主負担であり、保険関係の成立を前提とした対応が必要です。

安全配慮義務も当然に課されます。労働災害防止のためには、雇入れ時の安全教育や研修も必要となりますので、短時間で行えるようチェックリストやマニュアルなどを準備しておくとよいでしょう。

また、ハラスメント対策に関しても、相談窓口の設置や周知、行為や相談があった場合の対応などについて、通常の雇用と同様の対応が必要です。その他、短期雇用であることを理由とした不合理な待遇差は認められず、「同一労働同一賃金」に配慮した対応が求められます。

実務対応のポイントまとめ

スポットワークを活用する際の実務対応として、次の点をチェックしましょう。

  • 応募完了時点で労働契約が成立することを前提に運用しているか
  • 労働条件通知書を確実に交付しているか
  • 解約対応のルールを合理的に設定し、予め本人に通知しているか
  • 実際の労働時間を正確に把握・記録しているか
  • 賃金・交通費の支払いが契約どおりに行われているか
  • 労災保険関係の成立や安全教育が適切に行われているか
  • ハラスメント対策が整備されているか

おわりに

スポットワークは柔軟な雇用手段である一方、法令遵守と労働者保護の観点から、事業主には慎重な対応が求められます。特に、契約成立時期、解約対応、労働時間の管理、労災・ハラスメント対策については、厚生労働省のリーフレットやスポットワーク協会の発表した考え方に基づいた実務対応が求められるでしょう。

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