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2025年08月20日
社会保険労務士法人味園事務所 代表社員所長 味園 公一
今回は、近年注目されている「年収の壁」問題への対応策として設けられた2つの助成金制度についてご案内いたします。厚生労働省は、キャリアアップ助成金について既存の「社会保険適用時処遇改善コース」に加え、令和7年7月から「短時間労働者労働時間延長支援コース」を新設しました。
近年、パート・アルバイトなど短時間労働者の「年収の壁」問題が顕在化しています。特に、年収106万円を超えることで社会保険への加入義務が発生し、手取りが減少することを懸念して労働時間を抑える傾向が見受けられます。これにより、企業側は人手不足の深刻化に直面し、従業員側は働きたいのに働けないというジレンマを抱えています。
こうした課題に対応するため、厚生労働省は令和6年10月から「社会保険適用時処遇改善コース」を設置し、さらに令和7年7月から「短時間労働者労働時間延長支援コース」という助成金制度を新設しました。いずれも、社会保険加入を促進しつつ、従業員の処遇を改善することで、企業と労働者双方にメリットをもたらすことを目的としています。
この制度では「年収106万円の壁」への対応として、短時間労働者が新たに社会保険に加入する際に、企業が賃金の引き上げや手当の支給などの処遇改善を行うことで、最大50万円の助成金が支給されます(中小企業の場合の金額)。
支給額は、次の3段階に分かれており、最大3年間にわたって受給可能です(手当等支給メニュー)。
※金額は中小企業の場合のものです。
このほか、労働時間延長メニューや併用メニューも用意されています。
なお、企業が従業員に対して「社会保険料相当額の手当(社会保険適用促進手当)」を支給する場合、その手当は標準報酬月額の算定対象外とする特例が認められており、従業員の手取り減少を防ぐことができる点が大きな特徴です。
この制度は、最大3年間にわたり段階的に助成を受けることができるため、長期的な人材定着や処遇改善の計画に組み込むことが可能です。申請には「キャリアアップ計画書」を、取組開始前日までに管轄労働局へ提出する必要があります。
この制度では「年収130万円の壁」への対応として、短時間労働者の労働時間延長および賃金上昇をし、2025年10月以降に新たに社会保険加入に至った場合に、最大75万円の助成金が支給されます(常時雇用する労働者30人以下の事業主(小規模企業)の場合の金額)。
支給額は、次の2段階に分かれており、最大2年間にわたって受給可能です。
1年目(最大50万円)…次のいずれかを満たすことが条件です。
2年目(最大25万円)…1年目の取組を継続し、さらに次のいずれかの取組を行うことが条件です。
※金額は小規模企業の場合のものです。
また、前述の「社会保険適用時処遇改善コース」と同様に、企業が「社会保険料相当額の手当」を支給する場合には、標準報酬月額の算定対象外とする特例が適用されます。
制度の活用により、従業員は「年収の壁」を気にせず働くことができ、企業側も安定した人材確保が可能になります。特に、今後の採用戦略において短時間労働者の活用を検討している企業にとっては、非常に有効な支援策となることが考えられます。申請には「キャリアアップ計画書」を、コース実施前日までに管轄労働局へ提出する必要があります。ただし、社会保険適用時処遇改善コースの計画書を提出している場合には、改めての提出は不要です。
両制度は、いずれも社会保険加入を促進することを目的としていますが、対象者や取組内容、助成額、申請のタイミングなどに違いがあるため、注意が必要です。
「社会保険適用時処遇改善コース」は、すでに社会保険に加入した従業員に対して処遇改善を行うことで助成されるため、比較的導入しやすい制度です。
一方、「短時間労働者労働時間延長支援コース」は、労働時間の延長と処遇改善を同時に行う必要があるため、より計画的な対応が求められますが、その分助成額が大きく、長期的な人材育成にもつながることが考えられます。また、「短時間労働者労働時間延長支援コース」は2025年10月以降に社会保険に新規加入する従業員が対象となるため、今後の採用や雇用契約の見直しと合わせて活用することが可能です。
どちらの制度も、事前に「キャリアアップ計画書」の提出が必要であり、申請には一定の準備期間が必要です。なお、社会保険適用時処遇改善コース(労働時間延長メニューまたは併用メニュー)の取組を進めていても、短時間労働者労働時間延長支援コースの要件を満たす場合には、コースを切り替えて申請をすることが可能です。
今回のキャリアアップ助成金制度は、単なる資金支援にとどまらず、企業の人材戦略や働き方改革を後押しする重要なツールです。特に、短時間労働者の活用や社会保険加入の促進は、今後の労働市場において不可欠なテーマとなります。制度の活用により、従業員の働きやすさを向上させるとともに、企業としての魅力を高めることができるでしょう。ただし、助成金申請にあたっては、対象事業主や対象労働者の要件確認、計画書の作成、労働条件の見直しや申請書類の準備など、専門的な対応が求められますので、ご注意ください。
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