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第121期 中国における電力政策について

column

2025年06月25日

利墨(上海)商务信息咨询有限公司  南 みなみ

中国では昨今、原子力や太陽光、風力といった多様な発電手段に対し、中国政府が引き続き注目しており、その政策動向には国内外からの注目が高まっています。
本コラムでは、中国におけるエネルギー発電状況や電力政策の概要、直近で発表されたニュースについてご紹介します。
なお、自然エネルギーは2023年7月に「第99期 中国における自然エネルギーの発展について」にて取り上げておりますので、合わせてご参照ください。


中国における電力事情

発電設備総容量

「中国電力統計年鑑(2024)」によると、CO2排出を抑えた低炭素型の発電(風力、水力、太陽光、原子力を含む)の設備容量が、2024年時点で全体の56.9%に達しました。これは2020年の43.4%から13.5ポイント増加しており、中国の電源構成が大きく転換していることを示しています。

なかでも注目すべきは太陽光発電の伸びで、設備容量の比率は2020年の11.5%から2024年には26.5%へと大きく拡大しました。この背景には、2006年の「再生可能エネルギー法」に基づく固定価格買取制度(FIT)などの補助制度があり、太陽光発電の導入を後押ししてきました。また、「中国製造2025」などの国家戦略により、新エネルギー産業の育成が進められ、太陽光発電の技術革新や産業チェーンの整備が推進されています。これらの政策的支援により、太陽光発電の設備容量は大幅に増加しました。

さらに、国家エネルギー局は4月25日に「風力・太陽光発電の設備容量が初めて火力発電を上回った」と発表しており、今後も中国全体で電力のグリーン化・脱炭素化が一層進むことが予想されます。



図1 発電設備総容量推移(2020-2025年)

原子力発電

2025年4月に発表された「中国原子力発展報告2025」によれば、中国では稼働中、建設中、承認済みの原子炉は合計102基に達し、設備容量は1億1,300万キロワットを超えて、原子力発電の総設備規模で初めて世界1位となりました。

また、中国は主要原子力設備の100%国産化と、重要部品における技術の国産独自化を実現しており、原子力分野における技術的自立を進めています。今後も建設のスピードを維持することで、2030年までには稼働中の原子力発電設備容量でも世界1位の地位を確立する見込みです。

太陽光発電

中国では、太陽光発電が国内の発電設備容量の拡大を牽引する分野となっています。とりわけ太陽光発電モジュール(ソーラーパネル)の生産と輸出は大きく伸びており、2019年以降、輸出量は年々増加を続けています。

この動きは、世界各国における脱炭素化ニーズの高まりを背景に、中国製モジュールがCO2排出削減の一翼を担っていることを示しており、中国の再生可能エネルギー産業が国際的にも重要な役割を果たしていることがうかがえます。



表1 太陽光発電設備輸出状況(2019-2024年)


また、中国の太陽光発電製品は、近年国際市場で大きなシェアを占めています。その競争力の背景には、以下の4つの要因が挙げられます。

  • 技術革新とコスト競争力の両立
  • 中国企業は技術革新を積極的に進めており、発電効率の向上と製造コストの抑制を両立させています。たとえば、晶科エナジー(Jinko Solar)は「N型TOPCon」と呼ばれる次世代太陽電池技術を導入し、発電効率の向上に成功しました。

  • 政府の政策支援と市場の後押し
  • 2013年に中国国務院が発表した政策文書『太陽光発電産業の健全な発展に関する意見』は、産業の転換・高度化を後押ししました。補助金や固定価格買取制度などの政策もあり、企業の技術開発や輸出拡大を支える土壌が整っています。

  • 垂直統合された強固な産業チェーン
  • 中国国内には、シリコン素材から太陽光モジュールまでを一貫して生産できる完全なサプライチェーンが整備されています。さらに、設備や部材の国産化が進んでおり、生産コストの低減と安定供給につながっています。

  • 品質と性能に優れた製品開発力
  • 中国の太陽光企業は品質や性能への投資も惜しみません。例えば、協鑫(GCL)が開発した粒状シリコンを用いたモジュールは、消費エネルギーが少なくコストパフォーマンスに優れ、国際市場でも高い評価を得ています。

こうした技術・政策支援・産業構造・製品力の4つの強みを背景に、中国の太陽光産業は世界の再生可能エネルギー市場において重要なプレイヤーとなっています。

風力発電

再生可能エネルギー分野において、中国は風力発電の分野でもその存在感を強めています。

現在、世界中の風力発電設備部品の6~7割が中国で製造されており、グローバルな供給網の中核を担っています。洋上風力や標高3,000メートルを超える高地における発電など、多様な地理・気候条件に対応できる技術開発が進められています。

また、知的財産の点でも中国は先行しています。特許調査会社の発表によれば、直近10年間の風力発電分野における特許出願件数で、中国はドイツや日本を抜いて世界1位となっています。これは、同国がこの分野の技術革新に積極的に投資している証拠といえるでしょう。

特許データによると、中国企業は特に「風力発電機の大型化」に研究開発の重点を置いています。単機出力を高めることで、発電設備の数を削減し、建設および維持コストの最適化を図るなど、コスト効率の向上に向けた取り組みが進んでいます。



中国西北地域で最も標高の高い風力発電所 発電機第1弾が稼働開始


中国における電力政策

グリーンエネルギー推進の契機となった政策

中国におけるグリーンエネルギー政策の本格的な転換点は、2017年に発表された国家改革委員会の『エネルギー生産・消費革命戦略(2016-2030年)』にあります。

この戦略では、2030年までに非化石エネルギーの消費比率を20%以上に引き上げることなどを明確に目標として掲げ、再生可能エネルギーの導入が国家レベルで本格的に加速しました。

特徴的なのは、こうした方針が中長期的な数値目標とスケジュールに基づき、中央政府主導のトップダウン型で実行されている点です。政策立案から現場実装までがスピーディに進むという、中国の制度的な強みが、再生可能エネルギー拡大の大きな後押しとなっています。

このような背景を踏まえると、現在の中国の太陽光・風力・原子力といったエネルギー分野の成長は、単なる市場原理だけではなく、国家戦略として一貫して推進されてきた成果であることがわかります。



表2 グリーンエネルギー推進の契機となった政策

SDGsに関する中国の目標設定



表3 SDGsに関する中国の目標設定

全人代で発表された電力政策



表4 全人代で発表された電力政策


まとめ

本コラムでは、中国における原子力・太陽光・風力の各発電分野の現状を通じて、同国が再生可能エネルギーと低炭素技術の推進に注力している実態を紹介しました。これらの取り組みにより、中国は自国の火力発電依存度を徐々に引き下げつつあり、世界市場への製品輸出を通じて、国際的なCO2排出削減やSDGsの実現にも大きく寄与しています。

一方、日本では2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」の実現を宣言していますが、2023年度時点で化石燃料による火力発電が全体の68.6%を占めており、再生可能エネルギー等による発電は31.4%にとどまっています。これは、中国と比較すると依然として火力発電に大きく依存している現状を示しています。

日本が2050年に向けてカーボンニュートラルを達成するには、中国の事例に学ぶべき点も多いのではないでしょうか。中国の電力政策によってどのように発展を遂げていくのか、今後も注目していきたいと思います。

【参考資料】

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