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2025年06月18日
社会保険労務士法人味園事務所 代表社員所長 味園 公一
厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」において、働き方の多様化に対応するための労働基準法等の見直しについて検討されており、早ければ2026年にも労働基準法等の改正を目指しているとのことです。今回は、同研究会がまとめた報告書のポイントについて解説します。
労働基準法は1947年に制定され、近年では働き方改革等による改正等、時代に合わせた改正を重ねてきました。しかし近年、テレワークや副業・兼業の普及等により、柔軟な働き方ができるようになるとともに、会社においても柔軟な働かせ方が求められるようになってきました。そこで、改めて労働基準法の適用範囲や規制のあり方を見直す必要性が高まってきました。
現行の労働基準法において、労働者とは「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義されています。しかし近年では、「プラットフォームワーカー」と呼ばれるような、雇用契約に当てはまらない働き方が増加してきており、労働者の定義が実態と合わなくなってきていることから、定義を見直すことが議論されています。
なお、「プラットフォームワーカー」とは、特にデジタルプラットフォームを介して労務を提供する働き手のことです。発注者から業務を請け負い、労務や成果物を提供します。会社とプラットフォームワーカーとの契約形態については、いわゆる「業務委託契約」によって行われることが多く、2024年11月1日より施行されたフリーランス新法によっても保護強化がされているところですが、未だ労働者性をめぐる問題が懸念されます。
今後、労働者性の判断基準が明確化される場合には、プラットフォームワーカーの管理強化や契約形態の見直しが必要になる可能性があります。
労働基準法は、原則として「事業場単位」で適用されます。デジタル技術の発展、また新型コロナウイルス感染症対策を契機として、テレワークを導入する会社が増加しました。労働者が必ずしも事業場で働かなくなり、場所を基準とした「事業場」の概念が現実と乖離してきていることから、労働基準法の適用範囲を見直すことが議論されています。
今後は、企業単位や複数事業場単位での適用となる可能性が考えられます。また、テレワークの労務管理強化を徹底する必要性が増すことが想定されるため、コミュニケーションツール等を活用し、事業場で働いている労働者と同等の管理を目指すことが望ましいでしょう。
時代の変化に合わせた制度となるよう「労働時間管理のさまざまな見直しの検討」及び「労働からの解放に関する規制の検討」として、多くの制度見直しが議論されているところですが、今回は次の事項について解説します。
まず、柔軟な働き方の1つとして「テレワーク」が挙げられますが、テレワークにおいては、1日の勤務の中でも労働の時間と家事や育児等の労働以外の時間が混在することが多く想定され、中抜け時間が細切れに発生する可能性があります。そのため、テレワークによる柔軟な働き方に対応した労働時間制度として「フレックスタイム制」を活用することが考えられます。
ただ、テレワーク日のみフレックスタイム制を適用し、通常勤務日には所定の始業終業時刻を適用することについて、現行制度においては、フレックスタイム制を部分的に適用することはできず、テレワーク日と通常勤務日が混在するような場合にフレックスタイム制を活用しづらい状況があります。
そこで、研究会では、テレワークに限らず、出勤日も含めて「特定の日についてのみフレックスタイム制を適用する」ような「部分フレックス制」を導入することが議論されています。
法定労働時間週44時間の特例措置の対象事業場のうち、87.2%がこの特例措置を使っていない現状につき、報告書では「現状のより詳細な実態把握とともに、特例措置の撤廃に向けた検討に取り組むべきである」とされています。
なお、この特例措置の対象事業場とは、次に掲げる業種に該当する常時10人未満の労働者を使用する事業場をいいます。
特例措置が廃止される場合、上記事業場においても、法定労働時間が原則の「1日8時間、1週40時間」となります。
法定休日の特例として「4週4休」が認められていますが、労災保険における精神障害の認定基準では、「2週間以上にわたって休日のない連続勤務を行ったこと」が心理的負荷となる具体的出来事の一つとして示されています。
そのため、労働基準法における法定休日の特例を「2週2休」に変更することや、13日を超える連続勤務をさせてはならない旨の規定を設ける等、連続勤務の最大日数を減らす議論がされています。
「つながらない権利」とは、労働時間ではない時間に仕事への応答を拒否できる権利のことを指します。労働契約上、労働時間ではない時間に、使用者が労働者の生活に介入する権利はありませんが、テレワークの普及も相まって私生活と業務の切り分けが曖昧になり、現実には、突発的な状況への対応や、顧客からの要求等によって、勤務時間外に対応を余儀なくされることも少なくありません。
報告書では「勤務時間外に、どのような連絡までが許容でき、どのようなものは拒否することができることとするのか、業務方法や事業展開等を含めた総合的な社内ルールを労使で検討していくことが必要となる」とし、そのための積極的な方策としてガイドラインの策定を検討しています。ちなみにフランスでは、つながらない権利を法制化しています。
現状、勤務間インターバル制度は、労働時間等設定改善法において「健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定」として努力義務が課されておりますが、勤務間インターバルの時間数や対象者、その他導入に当たっての留意事項等は法令上示されていません。また、厚生労働省の「勤務間インターバル制度の導入・運用マニュアル」において、時間数や対象者等の設定に当たっての留意点を示しているものの、2023 年1月時点の導入企業割合は6.0%にとどまっています。
そこで、報告書では「抜本的な導入促進と、義務化を視野に入れつつ、法規制の強化について検討する」としています。多くの企業が導入しやすい形で制度を開始する等、段階的に実効性を高めていく形が望ましいとされ、労働基準法による強行的な義務とする考え方や、労働時間等設定改善法等において事業主に配慮を求める規定にする考え方、その他勤務間インターバル制度を就業規則の記載事項として位置付け行政指導等の手法により普及促進を図るという考え方等、様々な手段が検討されています。
現状、年次有給休暇取得時の期間中の賃金の支払いは複数の考え方がありますが、日給制・時給制で働く人が不利益を被らないよう原則「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」とすべきであると提言しています。
現状、年次有給休暇取得時の賃金の算定方法は、次の3つの方法のうちいずれかによると定められています。
一般的に、月給制で働いている場合には、年次有給休暇取得時には、1.の方法により月給から減算しないという手法がとられることが多いです。他方、日給制・時給制の場合等において、2.や3.の手法がとられてしまうと、計算式上賃金が大きく減額される可能性があります。報告書では「日給制・時給制の場合等であっても、原則として1.の手法をとるようにしていくべきではないか」として議論されています。
現状、厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」に基づき、通常の「労働契約の締結の先後の順に所定労働時間を通算し、次に所定外労働の発生順に所定外労働時間を通算する」という通算手順によるか、「管理モデル」を用いて予め設定したそれぞれの事業場における労働時間の範囲内で労働させる方法があります。いずれにしても副業先との労働時間通算、割増賃金算定の実務においては複雑な処理が求められています。
そこで、報告書では「労働者の健康確保のための労働時間の通算は維持しつつ、割増賃金の支払いについては、通算を要しないよう、制度改正に取り組むことが考えられる」とされています。
今後、副業先との労働時間通算を要しないこととされれば、より副業・兼業が普及するとともに、人材採用の場面においても「副業可」を希望する求職者が増えてくることが予想されます。現在副業を認めていない会社においても、今後の動向に注意し、副業を認めることの要否について改めて検討しましょう。
引き続き検討・議論されている内容ですが、改正がされることにより労働者のより柔軟な働き方が実現することになるでしょう。会社においては、制度導入や変更の検討、それに合わせた就業規則の見直し、個々の労働者との契約内容の見直し等、幅広く対応が求められることが予想されます。
また、昨今の人手不足・採用難の状況に鑑み、労働者が働きやすい環境整備をすること、最新の動向を踏まえた制度設計をしておくことが、人材流出を防ぐとともに、休職者から選ばれる会社になっていくのかもしれません。
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