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2026年05月20日
社会保険労務士法人味園事務所 代表社員所長 味園 公一
近年、ダイバーシティの推進やSDGsへの関心の高まりとともに、職場における「SOGI(性的指向・性自認)」への対応が企業の重要な課題となっています。今回は、SOGIハラの基礎知識から、企業が講ずべき具体的な措置と実務上のポイントについて解説します。
「SOGI(ソジ)」とは、性的指向(Sexual Orientation)と性自認(Gender Identity)の頭文字をとった言葉です。性的指向は自分がどのような性別の人を好きになるか、性自認は自分の性別をどのように認識しているかを指します。これは、LGBTといった性的マイノリティに限らず、すべての人が持っている属性を包括する概念です。
SOGIハラとは、性的指向や性自認に関するハラスメントのことを指します。具体的な言動としては、特定のSOGIに対する差別的な呼称(「ホモ」「オカマ」など)や嘲笑、いじめ、不当な異動や解雇、望まない性別での生活の強要、そして本人の許可なくSOGIを公表する「アウティング」などが挙げられます。 これらは特定の個人に向けられたものでなくても、職場に性的なポスターを貼る行為がセクハラになり得るのと同様に、周囲に不快感を与え就業環境を害する場合はSOGIハラに該当する可能性があります。また、対象者が性的マイノリティかマジョリティかは関係なく、侮蔑的な発言自体が問題となります。
現行の日本の法律では、SOGIを直接定義したり差別を禁止したりする明文規定はありませんが、厚生労働省の「パワハラ指針」において、SOGIハラやアウティングがパワーハラスメントに該当することが明記されています。具体的には、相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことや、機微な個人情報を本人の了解を得ずに他の労働者に暴露することが「精神的な攻撃」や「個の侵害」として例示されています。
また、セクハラ指針においても、被害者の性的指向や性自認にかかわらず、性的な言動による被害はセクハラの対象になるとされています。地方自治体によっては、条例でアウティングを禁止したり、同性パートナーシップ制度を導入したりする動きも広がっています。
対策を怠った場合、企業は複数のリスクを負うことになります。法的には、パワハラやセクハラ違反に該当する行為についてのハラスメント防止措置義務違反のほか、使用者責任や安全配慮義務違反を問われ、高額な損害賠償を請求される可能性があります。
実務面では、SOGIへの無理解は人材の流出や採用難を招きます。求職者にとって企業のSOGI対応は重要な判断材料であり、偏見による不採用や内定取消は、憲法上の平等権侵害や不当な内定取消として訴訟に発展するおそれがあります。さらに、SNS等を通じて悪評が拡散されることによる企業イメージの失墜も無視できない大きなリスクです。
SOGIハラ対策は、基本的にはセクハラやパワハラと同様の枠組みで進めるべきですが、アウティングの防止や性自認の尊重といった特有の配慮が必要な点に注意が必要です。
会社としてSOGIハラを許さないという方針を明確にし、従業員に周知・啓発することが第一歩です。就業規則には「あらゆるハラスメントの禁止」としてまとめる方法もありますが、SOGIハラが何であるか正しく理解させるためには、独立した禁止規定を設けることが効果的です。
社内規程には、SOGIハラの定義、差別的言動やアウティングの禁止、懲戒処分の対象となる旨を明記しましょう。特にSOGIハラの労災事例でも問題となった「望まない性別を想起するような呼称(例:君付け、彼、男性名での呼称など)」の使用を禁止事項として盛り込むことが、再発防止の観点から重要です。
ハラスメント相談窓口を整備し、性的マジョリティ・マイノリティ問わず誰でも相談できる体制を整えます。相談窓口の担当者は、カミングアウトを受ける可能性が高いため、事前の研修が不可欠です。対応を間違えると、相談窓口自体で二次被害が発生する「最悪の事態」を招きかねません。
特にアウティング対策として、相談者が許可するまで実名を出させない、どの範囲まで情報を共有してよいか本人に確認するといった対応をマニュアル化しておく必要があります。ただし、セクハラ被害の申告のために加害者のSOGIを伝える場合など、企業秩序維持のために必要なケースはアウティングの例外(正当行為)として扱うといった、カミングアウトされた側の権利保護も含めたバランスの良いルール作りが求められます。
トランスジェンダーの従業員がいる場合、トイレや更衣室、制服の利用が大きな課題となります。トイレについては「誰でもトイレ」の設置が検討されがちですが、建物の構造上の制約や、本人が「自認する性別のトイレを使いたい」と望む場合もあります。一律に決めるのではなく、まずは本人の希望を丁寧にヒアリングし、他の従業員への説明会や意見聴取を行うなど、慎重な調整を行うことが基本となります。
制服や身だしなみについても「男らしく、女らしく」という従来の価値観を押し付けず、性自認に沿った服装を希望する申出があった場合には、特段の事情がない限り認める柔軟な姿勢が求められます。
採用の場は、制服やトイレの確認のためにカミングアウトが行われやすい場面です。採用担当者は、カミングアウトを受けたことを理由に不採用にしないことはもちろん、その情報をみだりに他部署に広めないよう注意が必要です。
また、同性パートナーを扶養家族や慶弔見舞金の対象とする取扱いも望ましいでしょう。事実婚の証明として自治体の証明書や住民票を活用するなど、社内規程における「配偶者」の定義を見直し、不当な差別に当たらないよう一貫性のある取扱いを検討することが望まれます。あわせて、悪意を持って性自認を偽る行為(女子トイレへの不当な侵入目的など)に対しては、別途懲戒規定で対応するなどの備えも必要です。
SOGIへの対応は、特定の誰かのための特別な配慮ではなく、すべての従業員が自分らしく安心して働ける職場環境を作るための「当たり前の取組」へと変化しています。SOGIハラの労災認定事例を教訓に、「自社にはいないはず」という思い込みを捨て、いつカミングアウトを受けても適切に対応できるよう、制度の整備と意識の変革を進めていくことが、企業の持続的な成長と人材確保に直結するでしょう。最新の指針や裁判例に留意しつつ、誠実な対応を心がけましょう。
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