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2026年07月22日
利墨(上海)商务信息咨询有限公司 池邊 将規
中国では、スマホで注文した料理や日用品が30分ほどで届くのが、もはや当たり前になっています。それを支えているのは大勢の配送員だけではなく、膨大な注文を瞬時にさばくシステムです。上海で暮らす筆者が、「30分配送」を成立させる仕組みを、①注文をさばく頭脳、②「最後の100メートル」を埋める技術、③それを支える配送員、という3つの視点から読み解きます。
配送員の集団(出典:Unsplash/巻末「画像出典」参照)
中国では近年、「即時配送(クイックコマース)」と呼ばれるサービスが急速に普及しています。従来のECでは商品が届くまでに数日かかるのが一般的でしたが、即時配送では食品や日用品、医薬品、家電などを30分程度で届けるサービスが、日常生活に定着しています。
中国商務部研究院(商務部国際貿易経済合作研究院)がまとめた「即時小売業界発展報告」などによると、市場規模は2023年に約6,500億元(前年比約28.9%増) 、2024年に約7,810億元(同約20.2%増) 、2025年には約9,714億元(見込み、同約24%増) へと、毎年二桁台の伸びを続けています。わずか2年で約1.5倍という急成長です。同報告では2030年に2兆元(約48兆円、為替24円/元 )規模へ達すると予測しており、この分野は中国小売業の新たな成長エンジンと位置づけられています。
【図1】中国の即時配送市場規模
※出典:中国商務部研究院「即時小売業界発展報告」各年版(2023〜2025)をもとに作成。2025年は見込み、2030年は予測。
利用者層も広がっており、かつては若年層が中心と見られていましたが、近年は30~40代の利用も増え、食事のデリバリーにとどまらず、日用品や医薬品まで「必要なときにすぐ届く」ことが当たり前になりつつあります。
こうした急成長を牽引しているのが、美団(Meituan)、淘宝閃購(Taobao Instant Commerce)、餓了麼(Ele.me)といった配送プラットフォームです。ただし、配送員の数が多いだけでは、毎日生まれる膨大な注文を30分という短時間でさばくことはできません。その裏側では、注文の受付から配送員の選定、ルートの決定までをリアルタイムで最適化する仕組みが働いています。
まず、この仕組みがどれほど複雑な計算をこなしているのかを、具体的な数字で見てみましょう。
配送員が一度に運ぶ注文がわずか5件だとしても、受け取り(店舗)と受け渡し(配達先)を合わせた立ち寄り地点は10か所になり、その巡回ルートの組み合わせは11万通りを超えます。注文が増えれば組み合わせは爆発的に膨らみ、これは数学的にも「厳密な最適解を求めるのが極めて難しい」問題として知られています。しかも中国全体では、フードデリバリーの注文だけで1日あたり2億件を超えるとされます。これを人手でさばくことは到底できません。だからこそ、注文が入るたびに無数の選択肢を一瞬で評価し、最適な配送員へ割り当てる仕組みが欠かせないのです。
【図2】注文割り当ての流れ
例えば美団では、新しい注文が入ると、周辺の配送員の現在位置や、すでに抱えている注文数を確認し、その注文を追加しても配達が遅れないかを予測します。同時に配送ルートも計算し、最も効率よく届けられる配送員へ割り当てます。
ここで重要なのは、単純に「店舗に最も近い配送員」を選んでいるわけではないという点です。すでに複数の注文を抱えている場合や、進行方向が違う場合には、別の配送員に任せた方が全体として効率が良くなることがあります。そのためシステムは、距離だけでなく、現在の配達状況や進行方向まで含めて総合的に判断しています。
その効率を大きく押し上げているのが、「1人で複数の注文を同時に運ぶ」仕組みです。美団の配送員はバッグに5〜10件ほどの注文を入れ、受け取りと受け渡しを織り交ぜながら走り続けます。どの順番で回るかはシステムが刻々と指示するため、1件ずつ配達する一般的なサービスと比べて、2倍以上ともいわれる配達効率を実現しています。
【図3】1件ずつの配達と「複数同時配達」の違い
【表1】割り当てで考慮される主な項目
さらに、新人の配送員には近距離で配達しやすい注文を優先的に割り当てるなど、経験に応じた配慮も行われています。車両トラブルや店舗での調理遅延が起きた場合には、配送員の変更や配達時間の見直しを行う仕組みも備わっています。
こうした最適化の効果は、数字にも表れています。美団では、かつて「30分以内」をうたいながら実際には平均34分ほどかかっていた配送が、新しい割り当ての仕組みを導入した後は、大きなトラブルがない限り30分以内で届くようになったとされています。わずか数分の短縮に見えますが、膨大な注文数を思えば、その積み重ねが大きな差を生んでいます。
仕組みの役割は、注文を配送員に割り当てて終わりではありません。商品が利用者の手に渡るまで、配送状況をリアルタイムで分析し続けています。
その代表が、到着予定時刻(ETA:Estimated Time of Arrival)の予測です。配送時間は「店舗から自宅までの距離」だけで決まると思われがちですが、実際にはそれ以外の要素が大きく影響します。
美団が2021年に公開した算出ルールによれば、ETAは一つの計算式で決まるのではなく、①過去データに基づくモデル予測、②都市ごとの交通事情を反映した補正、③調理・受け取り・配送といった区間ごとの積み上げ、④配送距離に応じた補正、という4通りの方法でそれぞれ時間を算出し、そのうち最も長い(最も余裕のある)時間をETAとして採用します。予測が短すぎると配送員に無理な時間的プレッシャーがかかるため、あえて保守的な時間を選ぶ設計になっているのです。
【図4】ETAの算出ロジック
※美団外卖「予估到達時間」算法規則の公開資料(2021年)をもとに作成。図中の分数は仕組みを示すための例。
補足:図の見方
「多様な予測」……4通りの方法で配達時間を別々に見積もります。
「最終予測」……4つの見積もりのうち、最も長い時間をETAとして採用します。配送員に無理な時間的プレッシャーがかからないよう、あえて余裕を持たせる仕組みです。
さらに美団は、遠距離・多量の注文など難易度の高いケースでは、到着予定を「時刻」ではなく「時間帯」で示す試みも進めています。試験導入した都市では、利用者からの低評価(差評)が約5割減ったとされ、配送員の負担軽減と利用者の満足感の両立につながっています。
配送時間の大半は道路の走行時間だと思われがちですが、実際には建物に着いてから利用者に手渡すまでにも、少なからぬ時間がかかります。
こうした情報は、通常のカーナビでは扱えません。そこで餓了麼などは高精度地図を活用し、建物の入口や敷地内のルートまで細かく案内しています。さらに高徳地図(Amap)とも連携し、信号情報なども取り込むことで、配送員がより効率的に移動できる仕組みを整えています。
興味深いのは、配送員が現場で得た情報が、そのまま仕組みに反映される点です。道路工事、建物入口の変更、配達しづらい建物、階数情報などを配送員が報告すると、地図データが更新され、次回以降の配送品質の向上につながります。システムが判断し、人が情報を補い、それを再びシステムが学習する、このサイクルを繰り返すことで、中国の配送網は継続的に進化しています。
夜も走り続ける配送員(出典:Unsplash/巻末「画像出典」参照)
もっとも、どれだけ高度な仕組みがあっても、実際に商品を届けているのは一人ひとりの配送員です。
2025年のある調査では、中国のフードデリバリー配送員は約1,590万人に達し、前年から約6%増加したとされています(推計値で、統計の取り方により幅があります)。上海では毎日およそ20万人が稼働しているといわれます。報酬は一律ではなく、配達距離や荷物の重さ、時間帯、天候などによって変動し、雨天時や注文が集中する時間帯には追加報酬が支払われる仕組みも導入されています。
収入は都市の規模・勤務形態・稼働時間によって大きく異なります。美団が2025年に公表したデータでは、安定して働く「高頻度配送員」の月収は全国でおよそ5,700~10,900元と幅があり、契約配送員(専送)で月約7,000元、業務委託型(衆包)で月約8,300元というのが、より一般的な水準とされています。「月収1万元超」に届くのは、主に北京・上海・広州・深圳など大都市で長時間働く一部の配送員です。また、2025年にはプラットフォーム間の補助金競争によって、注文単価や収入が短期間で大きく上下する場面もありました。
【表2】配送員の概要
安全面への配慮も進んでいます。長時間労働を防ぐため、実際の配達時間が一定を超えると強制的にオフラインになる仕組みや、新人に難易度の低い注文を優先して割り当てる仕組みが取り入れられています。仕組みは、配送効率を高めるだけでなく、配送員の負担軽減や安全にも使われています。ここに、中国の配送システムの特徴があるといえるでしょう。
中国の即時配送市場は、今後もさらなる拡大が見込まれています。その背景には、大勢の配送員に加えて、注文の割り当て、到着予定時刻の予測、ルートの最適化、高精度地図の活用といった、幾重にも重なった仕組みがあります。
利用者にとっては「注文すれば30分で届く」便利なサービスですが、その裏側では、仕組みと配送員が連携しながら、膨大な注文をリアルタイムでさばく高度な仕掛けが動いています。
さらにその先では、無人配送車やドローンの活用も広がりつつあります。美団は深圳市でドローン配送を、北京市の一部では無人配送車による生鮮食品の配達を実用化し始めています。効率の悪い区間を自動化しつつ、人にしかできない配達に配送員を振り向ける。中国の即時配送は、そうした形でこれからも進化していくのでしょう。上海で暮らす私たちにとっても、その変化を身近に感じられる日が来そうです。
【引用情報】※日本からのアクセスが制限されている可能性があります。
※図表はいずれも上記資料をもとに作成。市場規模・配送員数・報酬などの数値は調査主体や算定時点により差があり、本コラムでは代表的な推計値を用いています。
【画像出典】
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