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無期非正規社員と同一労働同一賃金

column

2026年08月19日

社会保険労務士法人味園事務所 代表社員所長 味園 公一

これまでパートタイム・有期雇用労働法の直接の対象外と捉えられる傾向にあった「無期雇用のフルタイム社員」と「正社員」の待遇差について、仙台高裁の判決が確定し、大きな注目を集めています。今回は、パートタイム・有期雇用労働法の基礎をおさらいしつつ、裁判例を踏まえた今後の注意点を解説します。

パートタイム・有期雇用労働法と同一労働同一賃金の基本

パートタイム・有期雇用労働法(以下、「同法」といいます。)は、パートタイム労働者や有期雇用労働者について、通常の労働者(正社員)との間の不合理な待遇差をなくし、働きや貢献に応じた公正な待遇の実現を目指して施行されています。企業には、労働者の就業実態に応じた適切な雇用管理と、納得感を持って働ける環境の整備が求められています。

対象労働者と均等・均衡待遇の原則

同法の対象となるのは、同一の事業主に雇用される通常の労働者と比較して1週間の所定労働時間が短い「パートタイム労働者(短時間労働者)」と、期間の定めのある労働契約を締結している「有期雇用労働者」です。これらは、パートタイマー、契約社員、嘱託など、社内の呼び方にかかわらず該当します。

同法第8条では「均衡待遇」として、基本給、賞与、各種手当などのあらゆる待遇について、職務の内容(業務内容と責任の程度)、職務の内容・配置の変更範囲(転勤や異動の有無・範囲)、その他の事情を考慮し、不合理な相違を設けることを禁止しています。

さらに第9条では「均等待遇」として、職務内容および配置の変更範囲が正社員と同一である労働者に対し、パートタイム・有期雇用労働者であることを理由とした差別的取扱いを全面的に禁止しています。

待遇差の判断基準と企業の不合理性チェック

待遇差が不合理であるか否かは、「同一労働同一賃金ガイドライン」に基づき、個々の待遇の性質や支給目的に照らして判断されます。例えば、通勤手当や食事手当、安全管理措置、慶弔休暇などは、職務内容や雇用形態の違いにかかわらず、基本的に同一の支給や付与を行うことが求められます。

また、基本給や賞与についても、労働者の能力、経験、業績、成果、会社への貢献度といった決定要素が共通している場合には、その実績に応じた支給を行わなければなりません。単に「将来の役割期待が異なるため」といった抽象的・主観的な理由だけで待遇差を設けることは不合理とみなされるリスクがあります。

事業主に課される説明義務と体制整備

同法第14条に基づき、事業主には「労働者に対する説明義務」が規定されています。雇入れ時には、実施する雇用管理の改善措置内容を説明するほか、労働者から求めがあった場合には、比較対象となる通常の労働者との待遇差の内容や理由、待遇決定時に考慮した事項を客観的に説明しなければなりません。

また、説明を求めたことを理由として解雇や降格などの不利益取扱いをすることは禁止されています。さらに、同法第16条により、苦情や相談に適切に対応するための「相談窓口の整備」も義務付けられています。

裁判例から見る無期非正規社員の待遇と今後の注意点

前述のとおり、同法では条文上「短時間労働者」および「有期雇用労働者」を対象としており、「フルタイムで働く無期雇用の非正規社員」については、同法の直接の適用外であると考えられてきました。しかし、近年の裁判例により、その解釈に重要な一石が投じられています。

仙台高裁判決の確定と公序の確立

注目される裁判例は、場外馬券売り場で勤務していた無期契約・フルタイム勤務の非正規社員(嘱託・契約社員)が、同じような業務を行う正社員との待遇差(基本給、ボーナス、住宅手当、家族手当など)を不合理として損害賠償を求めた訴訟です。

会社側は「無期雇用間の待遇差に関する法律はない」と反論しましたが、一審の地裁支部は不合理な待遇差であることを認め、二審の仙台高裁も「無期雇用のフルタイム労働者と正社員との間においても、同ルール(同法第8条及び第9条の規定の趣旨)が公序として社会内に確立している」と判示しました。そして最高裁が上告申立てを不受理としたことで、「無期雇用の労働者間であっても不合理な待遇差は許されない」という高裁判決が確定しました。

企業に求められる今後の実務対応と注意点

今回の判決確定を踏まえ、企業は従来の有期・短時間労働者への対応にとどまらず、無期雇用の非正規社員を含めた雇用管理の見直しを進める必要があります。

全雇用形態を対象とした待遇差の点検

無期転換ルールにより無期雇用となった労働者や、無期雇用の嘱託・契約社員、限定正社員など、誰を比較対象の正社員とするかを含め、社内のすべての雇用区分と正社員との待遇差を点検します。基本給や賞与だけでなく、住宅手当、家族手当、慶弔休暇、退職金など、手当・福利厚生の全項目について差の有無を確認することが重要です。

待遇ごとの「性質・目的」の明確化と根拠の整理

それぞれの待遇について「なぜ支給しているのか」という性質や目的を整理します。転勤の有無や職務内容の変更範囲と直接関係のない手当(通勤手当や家族手当など)について格差を設けている場合、客観的かつ合理的な説明が困難となるため、制度の統合や見直しを検討します。

職務分析・職務評価の活用と規定の整備

職務内容や責任の程度を客観的に数値化・評価する「職務分析・職務評価」を活用し、社内の職務と賃金体系のバランスを整理することが有効です。整理した基準は就業規則や賃金規程に明記し、労働者からの説明要求や行政からの確認に対して、客観的・具体的に根拠を示せる状態を整えておくことが求められます。

おわりに

無期雇用の非正規社員に関する高裁判決の確定は、企業における同一労働同一賃金の取り組みを見直す機会になります。契約期間の有無や短時間か否かという形式的な区分にとらわれず、すべての働き手に対して納得感のある待遇体系を構築することが不可欠です。自社の賃金・手当制度の合理性を改めて点検し、公正な雇用環境を整えることは、法的リスクの回避のみならず、優秀な人材の定着や企業の持続的成長にもつながると考えます。

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